日本洞窟学会洞窟救助委員会 後藤 聡
Rescue Dayは第12回国際洞窟学会議の最終日の前日に行われスイス、 フランス、英国,ドイツなどの洞窟救助組織が担架やその他の救助用装備についての展示やデモンストレーションを行った。 当初予定ではREGAという国際的にも有名なスイスの民間レスキュー組織のデモンストレーションも予定されていたのだが、 何処かで事故でも有ったのか、当日になって中止されたのが残念である。 このREGAというのはアルプスでの山岳救助などヘリコプターを駆使した救助活動や、スイス国外からの緊急輸送などの活動もしており、 日本からスイスへの緊急輸送のために専用ジェット機で来日したこともあるようだ。
最初に紹介するのはスイスの担架である。この担架はSpeleo Secours Suisseなどで使用されている。
ハードタイプで柔軟性はないが、中央付近で曲げることができ、多少の狭洞部分ならば対処も可能に思えた。
また断熱剤として用いられる発泡性の樹脂を使い快適に過ごせるような配慮が為されている。
ただしこの樹脂を使った場合、ハーネスなどの装着が難しくなるように思えたが、
詳しくは不明である。
二種類の液を混合する |
発泡樹脂をビニール袋に流し込み、 均等に行き渡らせる。 発泡中は樹脂は熱を発するため暖かい。 また柔軟性がある。 |
その後、人が入ることで人の形に樹脂が発泡する。 | 人が抜けた後。人型の発泡樹脂が残っている。 |
下の写真は英国REACT社の製品群である。
手前側の銀色の棒状のものはクラックなどの幅の狭い場所に突っかえ棒のように渡して支点を作る。
長さの調整が可能で汎用性が高い。今回、いくつかの洞窟に入ったが、
金属の棒などを使って支点を作っている例がいくらか見受けられた。
これを使うとデーヴィエイション等がすばやく作成可能である。
またパレット状の薬剤と生ビールや炭酸飲料などで使う小型の二酸化炭素ボンベを使用し、
低体温症の患者に湿気があり暖かい空気を供給する吸入器具もあった。
REACT社の担架は米国SKED社の製品と同一コンセプトであるが脊髄ボードが付属している。 SKED社の場合は別売である。釣り下げ用の支点などはSKED社のものよりも使いやすく、 耐久性に優れているように見受けられた。
REACT社の製品群 | REACT社の担架 |
通信システムは3つのグループが公開していた。いずれもロケットチューブやペリカンケースに一つの
端末がまとめられていて、それらを複数接続していくような形態が多かった。グランドアースによる電話
機、二線式のもの、また220Vの電源ラインに通信情報を載せ、AC電源と通話とを同時に行えるシステムも
あった。このほかに無線式で地表と地下をダイレクトに結ぶシステムについても、何処かのグループが言
及していたような気がする。
次に紹介するのはフランスSSFが使用している装備群である。 SSFは洞窟内の水没部で使用可能な担架を所有している。 金属パイプで構成されるベースに、負傷者へのエアー供給のためのタンクが二つとレギュレーターが2つ装備されている。 また担架の中性浮力を得るための浮力体と浮力体にエアーを供給するためのタンクも別途装備されている。 この担架を使用する際に負傷者を収容するためのドライスーツも同時に公開されていた。 スーツと言うよりも首だけがでるドライバッグではある。 保温には、シャラフのような衣服と電気式のヒーターを兼用するようになっていた。
右上の写真はTSA製の担架である。SSFはこの担架を採用している。 一枚の樹脂製の板に負傷者を固定するためのストラップ、水滴などから保護するためのPVCの布などから構成されている。
右下の写真はUISの会期中展示されていたSSFのパネルである。 SSFの活動やレスキューの様子の写真などが詳しく紹介されていた。 こうした活動紹介のパネルは周知活動に役に立つので考慮の価値があると思う。
ドライバッグ。後方の赤いキルト地の ものは患者を保温するための物 | TSA社製担架 |
洞窟潜水用担架 | SSF展示 |