物理学分野では,洞窟内大気の流れ、気温、湿度などを流体と熱の移動としてとらえ,それらの現象を理論的に理解することを目的として研究が進められています。近年、気温、湿度、二酸化炭素濃度、風向・風速などの自動計測装置が普及して、飛躍的に研究が進んでいます。日本の洞窟の中で東北地方、山口県秋吉台および南西諸島において洞窟内大気のモニタリングが行われています。石灰岩の壁から放出されるラドンによる放射能等も洞窟内大気の動きを追跡する手段として用いられています。
(写真:洞窟内気象・滴下水量連続観測と滴下水の採取)
化学分野では、カルスト現象全般を化学反応として理解することを目的として研究が進められています。二酸化炭素は地球温暖化ガスの1つであり、そのほとんどは石灰岩の中に閉じ込められていますから、石灰岩地域での炭素循環も注目を集めています。ウラン-トリウム法による二次生成物の年代測定や微生物が関与する炭酸塩沈殿生成機構解明にも化学的手法が役立っています。 カルスト地下水水質は北海道から南西諸島まで多くの石灰岩地域において研究が進められており、石灰岩の溶解には土壌層二酸化炭素濃度が大きく関わっていることが明らかになりました。
(写真:秋吉台の草原カルスト(土壌層二酸化炭素により溶けた石灰岩が草原化に伴う土壌流出で露出))
洞窟内で筍のように上に向かって成長する石筍の研究は世界中で進められていますが、国内では特に植生の変遷に関する研究が進んでいます。山口県秋吉台の草原にある洞窟の石筍を用いて、今から240年前の部分で炭素同位体比が増加し、その値を現在までとり続けていることがわかりました。江戸時代に入って、定常的な「山焼き」により森林が失われ草原が維持されるようになったと考えられています。民俗学的資料の古絵図から読み取れる植生情報と一致しました。
(図:秋吉台の石筍に記録された植生変遷)