2018-2019 後藤 聡
日本洞窟学会会員のみなさま、こんにちは。2018年度から洞窟学会会長を引き受けさせていただくことになった、後藤聡です。私は高校生の頃よりケイビングを始め、大学時代から日本へのアルパイン・スタイルのSRTの導入と普及をJapan SRT Projectという団体で行い、そして20代後半ごろよりフランス等からの洞窟救助技術の導入と普及を日本洞窟学会洞窟救助委員会で行なっていました。また日本ケイビング協会所属時代に日本洞窟学会などの合併協議の世話人を行い、その後に日本洞窟学会の評議員、副会長を歴任した後、2008-2011年に会長を勤めていました。現在は、国内外での洞窟写真を主な活動とし、他にいくつかの洞窟で洞窟測量活動をおこなっています。
日本洞窟学会はきわめて学際的な学会であり,個人の会員も8つの専門分野(地理、地質、古生物、生物、人類・考古、物理・化学、ケイビング・探検技術、火山洞窟)のどれかに所属しています.会の運営は,事務局のほか,各専門分野から選出された評議員と会員全員から選ばれる評議員によって行われています。また7つの常設の委員会(洞窟学雑誌編集委員会、洞窟測量・記録委員会、洞窟救助委員会、広報委員会、大会記録委員会、ケイビング・ジャーナル編集委員会、企画運営委員会)も運営には大きく関わります。さらに毎年行われる大会のための、大会実行委員会など臨時に置かれる委員会もあります。これらの組織によって、日本洞窟学会の活動は成り立っています。
日本洞窟学会は1956年設立の日本洞窟地下水研究会に源流があり、1975年に設立されました。その後1959年設立の日本ケイビング協会、1978年設立の日本洞窟協会,1996年に日本火山洞窟学協会(現、NPO法人火山洞窟学会)と共に、洞窟学(Speleology)と洞窟探検(Caving)に関わる全国組織として合併し、今の日本洞窟学会の形になっています。本会は任意団体ではありますが、内閣府に属する日本学術会議の協力学術研究団体であり、国際洞窟学連合(Union International Speleology; UIS)の加盟団体であることなどから、他の洞窟関係団体よりも大きな信用を得やすい立場にあり、日本を代表する洞窟組織となっています。ついでながら,日本洞窟学会は2025年で設立50周年を迎えることとなります。50周年を迎えるにあたり、これまでの日本洞窟学会の歩みや業績などについてまとめる「50周年記念誌」の発行について昨年秋の評議員会において決がなされ、これから準備作業が始まる予定です。
本会の活動は、雑誌の発行、大会や講習会の開催が大きなものですが,この他にも目に見えない形で日本の洞窟学・ケイビング界に関わっています。たとえば、洞窟に入る際の届け出や許可等に関しての支援があります。昨今、様々な事故や保護のため、入洞を禁止されている洞窟があります。本会ではこれまでにいくつかの地域において、あまり適切ではない入洞規制が行われた際にその規制の緩和を求める交渉をおこなったり、洞窟の安全な利用と保護に関して助言を行ったりなどの活動を行い始めています。しかしながら交渉を行えている地域は沖永良部島と阿哲台地域などまだまだ少なく、やるべきことは多く残されています。
その他、本会と国外の研究者・ケイバーなどとの関係をより深めていくことで日本に限らず、海外関係者と研究や探査活動などを支援し、活発化させることも重要です。本会では,それらの活動に際して人的支援や、財政的支援を行える体制も構築していきたいと考えております。
さて,日本洞窟学会の会員であることについてのメリットは何でしょうか。それは会員になることを考えている人にとっても重要なことです。それは明示的に得られるものと暗黙的に得られることとの双方があります。
明示的なメリットとしては、日本洞窟学会の出版する雑誌の配布を受けること、洞窟学雑誌へ投稿可能なこと、年に一回行われる洞窟学会大会で講演を行うことができること、談話会や講習会などへの参加できること、そして各種学会主催行事での参加費の割引などがあります。
暗黙的なメリットはたくさんありますが、あまり意識されるものではありません。洞窟学会大会に参加することで得られる人脈(これは委員会活動や大会運営などに関わればさらに強固なものになります)は、暗黙的とはいえ明示的に近い部分であり、会員にとって大きなメリットの一つです。
一方、会員の役割とはなんでしょうか。本会の目的には様々な物があります。その目的を果たすためには人が動かなければなりませんが、それは評議員のみの役割ではありません。会員が委員会に積極的に参加することによって、会の活動は活発になります。委員会には個人会員だけでなく団体会員に所属する人も参加できます。学会が主催する講演会などに、多くの会員がただ参加するだけでも会の活動は活発化していきます。日本洞窟学会の委員会活動や大会などに積極的に参加することが会員の大きな役割です。
先に述べたように、本会では洞窟がある各地域での安全なケイビングや地域の洞窟学の普及や入洞規制に関する交渉も行っていますが、十分な状況とは言えません。これは交渉にあたる担当者の不足と、手弁当での出張を余儀なくされているなど十分な体制が日本洞窟学会で構築できていないことに尽きます。日本洞窟学会会員が増えれば交渉担当者も増えることが期待できますし、人が増えれば学会財政が豊かになることで、それら学会活動を支援するということともなり、会員にとっては渉外が容易になるなどの間接的なメリットを受けることができるでしょう。
最後になりますが私は,2008年から2011年までの二期4年に会長を務めさせていただきました.会長を三期引き受けた例はありませんので,お役御免と思っていたところ、再び担ぎ出されることとなってしまいました。再び会長を引き受ける決断に際してはいろいろと悩みました。現在、私は国際洞窟学連合次官補(Adjunct Secretary of Union International Speleology)を2017年から2021年まで引き受けているだけでなくアジア洞窟学連合事務局長(General Secretary of Asian Union of Speleology)も勤めています。また2019年3月に国際写真家会合を招致しその責任者ともなっています。このように私は国外での洞窟学、ケイビングに関しての役割を強く求められています。そのため当初は、国内の洞窟学,ケイビングに深く関わる余裕がないため再び会長になるということは、全く考えておりませんでした。
しかしながら諸般の事情で会長を再びやって欲しいという声に推され再任を決断いたしました。やるからには上述のような現状日本洞窟学会が抱えている問題の改善や、新機軸での事業の推進などを、評議員や委員会の方々などの協力を得て勧めていく所存です。
最後になりますが、会長を二期務めたものが,再び会長をやらなければならないという状況は学会としてあまり好ましいことではないと考えています。より皆様の積極的な学会への参加を希望いたします。
任期の間、会員の皆様のご協力とご理解のほどをよろしくお願いします。
2018年6月3日