2012-2013 浦田 健作
日本洞窟学会員のみなさん、こんにちは。
本学会評議員、副会長を務めた経験を踏まえ、本年3月31日の評議員会で会長に選出されました。任期は2年です。どうぞよろしくお願いします。
今期は、会員から副会長に選出された染谷 孝氏(生物学分野)および前期会長から引き続き副会長を務める後藤 聡氏(ケイビング・探検技術分野)とともに、評議員会、各委員会のみなさん、そして事務局員のみなさんのご協力をいただきながら、本学会の発展のために共にがんばりたいと思います。
会長就任にあたって自己紹介をさせてください。
私は子供の頃から物語に登場する地下世界や観光鍾乳洞、さらに古墳や筑豊炭田の廃坑などに不思議な魅力を覚えていましたが、中学三年の1972年に同級生を誘って、生まれ育った福岡県北九州市の郊外にある平尾台カルストで洞窟探検を始めました。洞窟探検からカルスト地域の地質学・地理学に興味が広がり、九州大学理学部地質学科、広島大学大学院生物圏科学研究科(環境計画科学専攻)、東京都立大学大学院理学研究科(地理学専攻)において研究を続けました。平尾台カルスト・システムの研究によって学位を取得したあとは、東京都立大学や大阪経済法科大学でカルスト研究を継続しています。その一方で、九州大学探検部、そして1984年に結成したカマネコ探検隊の隊長として洞窟探検・普及・保護活動を行なってきました。多くの共同研究者とともに平尾台をベースに山口県秋吉台ほか中国山地の石灰岩地域、九州山地、南西諸島など西日本のカルスト地域を中心に活動し、近年では滋賀県近江カルスト、岐阜県各地、静岡県浜松地域など東日本へも進出しています。
国際的には、国際洞窟学連合(UIS)、国際地質対比計画(IGCP)、国際水文地質学会(IAH)、ラムサール条約などのカルスト関連プロジェクトや国際会議・巡検に参加して、カルスト形成の両極限である極地から沙漠まで様々なカルストを体験してきました。またJICA洞窟環境保全専門家として3年間スロバキア環境省洞窟管理事務所(SSJ)に派遣されて、カルスト研究の長い歴史をもつ中欧諸国を訪問し、各地のケイバー、研究者と交流を深めたことも有意義な経験となっています。今後は地球規模の視野から日本のカルストの全体像を捉えたいと考えています。
日本洞窟学会(The Speleological Society of Japan)は1956年に設立された日本洞窟地下水研究会(The Spelaeological Society of Japan)を発展させて1975年に国際洞窟学連合(UIS)加盟窓口となる国内組織として発足し、さらに1996年に日本ケイビング協会(1959年設立)、日本洞窟協会(1978年設立)と合併、日本火山洞窟学協会の協力のもとに洞窟科学と洞窟探検の全国組織となりました。私は本学会の前身組織である日本ケイビング協会に1975年、日本洞窟協会に1978年、日本洞窟学会(地質学分野)に1980年に入会しました。本学会では1988年~1989年と1998年~2011年に事務局員、1998年から現在まで評議員(全分野選出)と洞窟学雑誌編集委員(1998年~2001年ケイビング・探検技術分野、2002年以降地質学分野担当)、2004年に第30回大会(平尾台大会)実行委員長、2010年~2011年に副会長を務めています。このたび上記のように自身の洞窟活動をふりかえってみたところ、40年にわたる洞窟活動の大部分の期間が前身団体を含む本学会の活動とともにあったことに改めて気づきました。これまで学会活動を通じて会員諸氏にお世話になったことを励みに、会長として本学会の活動に貢献するとともに会員個々の活動の支えになりたいと考える次第です。
さて、本学会は1996年の新生以来16年目を迎え、世代交代が進むとともに新生後に入会した会員の割合も増え、さまざまな面で組織運営を見直す時期にきているように思います。洞窟学雑誌とケイビング・ジャーナルの発行は滞ることなく順調に巻号を重ねていますが、財政は必ずしも順調ではなく余裕のない状況が続いています。会員増による財政状況の好転が必要です。また、近年、本学会として対応が必要な課題をあげると、(1)研究活動・地域活動の両面における世代交代にともなう後継者の育成、(2)探検技術の普及と安全対策、(3)大会運営の見直し(4)洞窟学用語集や探検技術書の出版、(5)洞窟情報のデータベース化、(6)交換文献の整理・活用、(7)自然教育・保護活動、(8)観光洞や洞窟を管理する行政との連携、(9)関連分野や外国洞窟組織との連携、(10)観光・野外活動・自然教育など社会的関心への対応、(11)注目を集めている世界遺産・ジオパーク・ラムサール地下湿地への対応など、枚挙に暇がありません。これらの課題には個々の会員が取り組んでいるものの、本学会としての組織的な対応は充分とは言い難い面があります。まずはしっかりした組織運営と活性化によって具体的にこれらの課題に対応し、洞窟活動を楽しんでいただけるよう会員の活動を支援するとともに社会に貢献していきたいと思います。会員のみなさんのご協力をお願い申し上げます。
2012年7月1日