2008-2009 後藤 聡
日本には石灰洞窟(鍾乳洞)、 溶岩洞窟、海食洞窟など、様々な種類の洞窟があります。日本洞窟学会ではこれらの洞窟や様々な側面から調査・研究を行うと共に、それらの調査を安全に行うための、測量、竪穴降下・登攀、救助などの洞窟探検技術についても研究・啓蒙・普及を行っています。洞窟学は、洞窟に関する学際的な幅広い分野の研究や、洞窟に関する教育・啓蒙、洞窟の保全と持続的利用などからなります。
日本洞窟学会は、その設立の経緯から洞窟に関係する研究をしている専門家と、洞窟探検を行いながら洞窟学に興味を持つアマチュア研究家、純粋に洞窟探検を楽しむケイバーなど様々な人が会員となっており、研究者とのアマチュアとの距離がとても近い学会でもあります。
日本洞窟学会では、学術誌「洞窟学雑誌」を年1回、情報誌「ケイビングジャーナル」を年3回出版しています。また年に一度、洞窟学会大会として総会と学術講演会、ケイビング巡検を開催しています。昨年度の大会は3月に鹿児島県知名町(沖永良部島)で行われ、遠隔地の離島、彼岸の時期という悪条件にもかかわらず、50人の参加者があり、口頭講演、ポスターセッション、ケイビング巡検に加え、地元在住の約60人を対象としてケイビングを体験してもらう企画などが行われました。本年度は8月22日~24日に浜松市での開催が予定されています。
私は20年あまり洞窟探検を趣味として活動してきましたが、その活動の中でSRT(シングル・ロープ・テクニック/一本のロープを用いた竪穴探検技術)や洞窟救助技術、洞窟測量ソフトウェアなどを海外から導入したり、研究・開発したりして、日本各地の洞窟探検家へのケイビング技術の普及を図ってきました。ここ10年ほどは洞窟救助技術について洞窟救助委員会主催の講習会を開くなど、その普及に特に力を注ぐと共にUISの行う国際洞窟学会議や様々な洞窟救助関係の国際会議に積極的に参加するなど、国際交流を深めてきました。今後も国際交流には力を注ぎ、諸外国の研究者や洞窟探検家との接点を保つことで、さまざまな技術交流を行うだけでなく、海外から、あるいは海外へ行く、研究者や洞窟探検家のサポートができればと考えています。
さて最近、洞窟において死亡を含む数件の重大事故が起きています。これまで日本洞窟学会は洞窟救助委員会を通じて会員やケイビング団体への救助技術の普及や、ケイビングジャーナル誌を通じて安全な洞窟探検の啓蒙を行ってきました。しかし洞窟事故を起こす人が日本洞窟学会関係者に限られません。したがって、今後はさらに広い範囲への啓蒙や、洞窟を持つ自治体や管轄の警察・消防などの関係機関との協力や情報交換・提供などの働きかけを、日本洞窟学会として何らかの措置を講じていく必要に迫られていると感じています。
それと同時に洞窟自体の保護保全や、節度ある利用を関係機関と協議・啓蒙していくことも洞窟を美しい姿のまま後世に残すために重要であると考えています。
また今後、学会が継続的に発展するためにも、洞窟学に興味を持った研究者が、洞窟に関する調査や研究のサポートを行うことも重要な役割だと考えています。
これらのことを実行するためには、会員全員の支援と学会運営への積極的な参加が必要です。私達の学会をより良いものにするためにも、会員諸氏のご協力をお願い致します。